ふうちゃん物語(17)西円寺の若和尚

ミャー子のついていった三毛猫はコハルといい、二匹は、これといった縄張りを持たず夏の間あちらこちらで暮らしていましたが、秋風が吹くころには西円寺(さいえんじ)というお寺のお庭に住み着いていました。

さて、今までチビを始めとする猫を中心に物語を進めてきましたが、ここでちょっと人間のお話に寄り道させてください。

西円寺は、ここ江口町にある古いお寺ですが、最近どこでも同じように檀家の減少に悩まされ、お参りする人も減少し、何となく影が薄くなっているお寺で、口の悪い昔ながらの住民は、「さえないから西円寺だよ」と言ったりする者もあるぐらいでした。

そこのお寺の隅に住職一家が住んでいました。

朝6時ーー眠そうな顔をした、眼鏡をかけたひょろっとした青年がスリッパをつっかけ、台所にやってきました。「おはようございますぅーー、お義母さん・・・ふわ〜」「あら、タカシさんまた徹夜?」「はは、まあ寝てますよ」

タカシは、厚生労働省に勤めるれっきとしたお役人ですが、ここの住職の娘、ミチコと結婚直後にミチコの兄が急逝して以来、同居をしています。

「おはよ、タカシ君、あのね、、、」ちょっと遠慮がちに話しかけたのは、妻のミチコで、タカシより2歳下のかわいい女性、今お腹に赤ちゃんがいます。「日曜日の譲渡会、参加者がふえたから開始時間を繰上げようって、夜連絡があったんだけど」

「ああ、そうなの?最近は猫ブームのせいで来る人がふえたからね。」

タカシとミチコは、猫の保護団体・NPO日本キャット仲人協会の活動もしていて、この場合の仲人は猫と人間のという意味ですが、西円寺の本堂を譲渡会の会場に使用しているのです。

「それからね、同じ日だけど、午後から法事もあるの覚えてるよね・・・?」ミチコさらに言いにくそうに。

「ああ、覚えてるよ」

「ごめんね、せっかくのお休みなのに、葉山さん、檀家さんの中でも大きいところで。」

「大丈夫だよ。じゃあ行ってくるよ」

つまり、タカシは公務員・猫の保護活動・僧侶と、3足のわらじを履いているのでした。

道すがら、タカシはお寺の金木犀の木の下にいるミャー子とコハルをちらっと見て、「あの猫たち、最近よくいるなあ・・・」と思いました。

そして、日曜日が来ました。

西円寺の本堂は、猫と人間でごった返し、熱気にあふれています。

「はい、こちらで受付しますのでお名前を。」タカシも張り切っています。

「あのー、チラシの猫ちゃんはどの子ですか?」「ああ、この子ですよ」タカシが手を伸ばした途端、「ふにゃーーおおお!!」バリバリバリ!見事に引っかかれてしまいました。「わー!いたた!この子、普段はおっとりしてるんですけどねえ、興奮しちゃって」

手当している間に、ミチコがそっと呼びに来ました。「タカシ君、もう車待ってるよ!」「あっ、もうこんな時間か!」あたふたと袈裟に着替えて法事に向かいます。(続く)

ふうちゃん

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古波蔵ふう香
古波蔵ふう香
猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。