くすくす笑いの方に振り返ってみると、小柄で淡い色の三毛猫がいました。
「ママ、ママって泣いてるから赤ちゃんかと思って来てみたら、こんな大きい子がべそをかいてるじゃないの。」
ミャー子はちょっと恥ずかしくなって、ぷいっと顔を背けて「・・・あなたにはわかんないよ、私の気持ちなんて。」と精一杯強がって言いました。
「ああ、そうだね、聞かなきゃわかんないよ。何があったか言ってごらんよ。」ちょっと優しく言われたので、ミャー子はぽつりぽつり、今までのことを話しました。ママとの別れ、新しいうちのこと・・・
一通り聞いて、三毛猫はぽそっと言いました。「うらやましいね・・・」
「私は生まれたときから母さんもきょうだいもいなかった。泥水をすすって、流れ流れてどうにか生きてきた。
他の猫はいつも奪うか奪い取られるかでしかなく、人間は恐ろしいものでしかなかった。
心から甘えられる母さんが欲しくて欲しくて・・・せめて母さんになりたかったけど、子猫たちはみんな夏の暑さにたえ切れなかった。
いつもひとりぽっち。たくさんの猫、大勢の人間に会ったけれど、目の前を通り過ぎたというだけ。
私はもう誰に会っても一つも期待していない。悲しみも寂しさも、心を動かさなければ何もなかったのと同じだからね。」
「・・・・」ミャー子はじっと聞いていて、何と言っていいかわからなかったので、ぺろぺろっと三毛猫のほおをなめました。「誰にも期待していない」と言う三毛猫が、とても寂しそうに見えたからです。
三毛猫は「あら・・・」と少し照れて、「こっちへおいで。少しだけどご飯あるよ」と茂みの奥へ誘ってくれました。
ミャー子が後ろをついて行こうとしたとき、がやがやと人間の声が聞こえてきました。
「こっちこっち!さっき車の中から見たの!あれは絶対ミャー子だった!」レナとあずさでした。「ミャー子ぉ、出ておいでー!」「ミャー子ー!」
「・・・・」ミャー子は足をとめてしばらく考えている様子でしたが、くるりと向きを変えて三毛猫の後に従い、もう振り返りませんでした。(続く)
投稿者プロフィール
- 猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。
最新の投稿
- 2024.12.28ふうちゃん物語・夏動画を撮りたい
- 2024.11.10三味線なじむのに時間がかかったお嬢様
- 2024.09.23三味線新しいお弟子さんはキラキラ〜
- 2024.09.18三味線甲野善紀@音楽家のための身体操法講座