ふうちゃん物語・夏(8)ひいおばあと猫っかぶり三味線

「旧慣温存政策って学校で習った気がしますぅ」

「えりぃちゃん、よく覚えてるね」お父さんは話を続けます。

「そう、琉球が沖縄になってから士族もいなくなったけど、しばらく社会制度は残していたらしいね。

例えば、うちのひいおばあは離島のノロだったんだけど、明治の後半、亡くなるまでノロをやっていたみたい。ノロって、祭祀をつかさどるために琉球王府から任命された公務員みたいなものなの。知ってた?」

「はい」マナの大きな目が光りました。

そのとき、泡盛片手にいいあんべぇになった金城さんが割り込んできて「あれ、仲間由紀恵と結婚したのゲゲゲの俳優だっけ?」話しかけてくるので、話題がちょっとそれてしまいました。

さて、一方、ふうちゃんのおうち。

ふうちゃんのお母さんは、昼間空手の演武を見た後、家に帰ってお稽古をしていました。

「ううーん、なかなかスピードが出ないなあ・・・」今、チンチリレンのスピード練習をしているのですが、思うように弾けません。

ふうちゃんは部屋の隅で静かに香箱座りをしていました。目をつむっていましたが寝ているのではなく、三味線に耳を傾け「スピードに気を取られて休符が曖昧になってきた・・・そこはテンポをキープして。それにしても、1の糸の調子が狂ってるのが気になるにゃー」と、鋭く批評していました。

猫は耳がいいので、三味線を弾いたらきっとすぐ名人になるでしょう。近頃は数は減りましたが、三味線の皮はもともと猫が多かった。一度弾くと、三味線弾きは猫皮がいいと口をそろえて言います。それはきっと、猫の持つ音楽センスと第六感が人間に伝わって、普段以上に上手になるせいでしょう。

もっともそれは、人間の方が猫に好かれた場合ですけど。気まぐれな猫は、最後まで相手を選り好みして、好きでもそっぽを向いているときもあるんです。

「あー、もう弾けない。疲れたー」お母さんは三味線を投げ出して、ごろっと横になってしまいました。しばらくそのまま寝ていると、お父さんから電話。「はい、え?マナちゃんがうちに来るの?」

打ち上げが盛り上がって終電を逃し、方向が同じということで、急遽うちに泊まることになったのでした。

「お客様用の布団出さなきゃ!」お母さんはばたばたと準備を始めました。

ぽつんと残されたふうちゃんと三味線。ふうちゃんは座布団の上でごろごろしていました。すると、

「びーーーん・・・・びよーーーん・・・びよよーーーん」

三味線がひとりで鳴っている!!さっきはつかなかったサワリがうるさいほど鳴っています。

「何か来る!」ふうちゃんははっと顔を上げて、三味線の方を見ました。

「おかあさーん!三味線が変だよー!」ふうちゃんは訴えます。

「あれ?ふうちゃん、にゃーにゃーしてどうしたの?」お母さんが部屋に戻ってきました。

しーー・・ん

さっきまであんなに鳴っていたのに、三味線は知らん顔。

「ふうちゃん、これからお客様来るけど、かわいいお姉さんが来るから心配しないでね」そう言い残して、また準備の続きを始めました。

「この猫っかぶりの三味線め!!」ふうちゃんはあきれるとともに、三毛の毛皮がざわざわっと逆立つのを感じていました。(続く)

 

楽譜