ふうちゃん物語(1)生まれてはみたものの

 

5月の雨上がり、ふうちゃんは生まれました。

ここは都心から電車で1時間ほどの街、東京にはよくある落ち着いた住宅地とタワーマンションが混在している街です。

そんな街の、古い住宅地の一角にある家でふうちゃんは生まれました。

きょうだいはふうちゃんを入れて4匹、お母さんは「ミー子」と呼ばれる、まだ若い三毛猫でした。

ミー子は野良猫でしたが、完全な野良ではなく、何軒かのおうちからご飯をもらいに定期的に巡回している猫でした。

昔は猫はこんな生活でしたよね。この住宅地では、まだそんないいかげんな、猫にとっても人間にとってもゆるーい関係がありました。

 

ミー子は出産に当たり、以前からここのおうち、阪田家に目をつけていました。

というのも、ご飯をくれる何軒かのおうちの中で一番居心地がよさそうで、人がよさそうなのがここだったからです。

阪田家は、両親と、中学生のお姉ちゃん、小学生の弟君の4人家族でした。

お姉ちゃんのあずさは、学校帰りにお友達といつもご飯をくれる優しい子で、ミー子の出産に際しても、ダンボール箱やタオルの準備をして、かいがいしく世話をしてくれました。

ふうちゃんのきょうだいは、上からキジトラのキー子、ミケのミャー子、白黒模様のクー、ふうちゃんは「チビ」と名付けられました。名づけたのは小学生の翔くんでした。

 

ふうちゃん

あずさと翔は、子猫を大事にタオルにくるみ、母猫にもたっぷり牛乳を飲ませました。猫たちは何の心配もなく、すやすや眠っていました。

子猫が生まれてしばらくたった日、午後から小雨が降り始めました。

「おじいちゃんが・・・病院に・・・」
「4匹も・・・そろそろ・・・」

隣の部屋で両親と子供たちの声が聞こえてきます。

ミー子は目をつむって聞いていました。

「そろそろ、来るべきものが来たかにゃ?思ったより早かったけど・・・」

雨は本降りになり、屋根を打ちつける音が大きく聞こえるのでした。

 

 

 

 

 

投稿者プロフィール

古波蔵ふう香
古波蔵ふう香
猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。