ふうちゃん物語(21)恋多き女

「さあ、猫ちゃんたち、ご飯ですよ。」ご飯はタカシの妻、ミチコが持ってきてくれます。もうお腹が大きいので、お皿を置くのがしんどそう。

西円寺には猫が何匹か住みついていて、その子たちが集まってきます。ミャー子とコハルもいます。
「最近、この子たちよくいるけど、親子かなあ・・・」ミチコは、二匹を親子だと思っていました。
ミチコは長いこと猫の保護団体、日本キャット仲人協会の活動をやっていて、長年の経験から、二匹は無理に保護せず、しばらく様子を見ることにしていました。
「ミチコ、タカシ君まだ?もう車来てるの!」ミチコの母が呼びに来ました。「あっ!もうこんな時間?呼んでくる!」ミチコはばたばたと本堂の方へ。
ご飯を終えた二匹の、いつもの場所に戻る間の会話。コハルは少し足を引きずっているので、ゆっくり歩きます。
「ここはいいところだね」コハルが言って、
「あの人間は押しつけがましくなくご飯を置いてくれる。ご飯を食べさせてくれる人間は、なでるくらいなら我慢できるが、時にこっちを捕まえようとするから油断できないよ。」
二匹の定位置は、キンモクセイの木の陰でした。そろそろ花が咲き始めて、あたりにいい香りがしていました。
ふう
ミャー子「ねえ、母さん、このごろ余り食べないのね。散歩も余りしなくなったし・・・」
コハル「動かないから食べないだけだよ。それにあたしはこの花が好きだから、ずっとここにいるんだよ」
ミャー子「キンモクセイが?」
「キンモクセイは、バラやヒマワリみたいに「ねえ、こっちを見て!」って押しつけがましく主張しないだろう。でも、このいい香りに包まれたら、誰でも、どこからしてくるんだろう?どこに咲いているんだろう?って探さずにはいられない。そうやって相手に探させる方が粋だと思わない?」
意外な答えに、ミャー子は目をぱちくり。
「ふーん、それで母さん、誰に探させたの?」
「あら、この子は。もう・・・」「ね、ね、誰よ〜」
「ふふ・・・」二匹はつつき合って、ミャー子はこんな時間がずっと続けばいいなあと思いました。
ミャー子は、ひょっとして母さんは恋多き女だったのかなあと思いました。
ふう
それから数日して、コハルは全く食べなくなりました。
その日、夜中から雨が降り出したので、コハルが「本堂で雨宿りしよう」と言いました。タカシがよく鍵を閉め忘れることを知っていたのです。
二匹は本堂に向かいました。コハルはもう歩くのもやっとという感じで、ミャー子ははらはらしていました。
「ふあー、そろそろ寝るか・・・」仕事が一段落したタカシが、ふと2階の窓から見下ろすと、本堂の方へ二匹が向かっているのが見えました。(続く)
ふうちゃん

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古波蔵ふう香
古波蔵ふう香
猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。