ふうちゃん物語〜タイタニック番外編

 

テレビで映画「タイタニック」が放送されていました。

 

「DVDがあるから、それを見ればいいのに」というお父さんの言葉をよそに、お母さんはテレビに集中、「この頃のディカプリオはよかったわ〜」とか言っています。

 

ふうちゃんも一緒に見ていましたが、だんだん疲れて、スリリングな救出劇が終わり、おばあちゃんになったローズが船の甲板に出てくるあたりになると、瞼が重くなるのでした。

 

ベッドに横になるローズ。枕元には、人生を振り返るかのような多くの写真があります。

 

夢の中では、ジャックが待っています。タイタニック号も昔のままです。

 

「ジャック!夢じゃないの?死んだなんて嘘だったのね!」

 

駆け寄ろうとしたローズの耳元で、「んにゃぁぁ〜、にゃ、にゃ〜!」という声が聞こえます。

 

・・・ん?ローズおばあちゃんはガバッと起きると、枕元に見たことのない三毛猫がいるではありませんか!!

 

「ちょっと、お前どこから入ってきたんだい!せっかく60年ぶりにジャックに会えたのに、邪魔するんじゃないよ!」

 

「ローズおばぁ!よかった、死んだのかと思っちゃったよ!ご飯ちょうだい!!」

 

ふうちゃんも実はびっくりしていました。映画の中でローズがベッドに寝ているところまでは必死で見ていたのですが、睡魔に負けて寝てしまったのです。そして起きてみたら、物語の中に入ってしまったらしいのです。

 

しかし、そこは猫。

 

現在過去未来、次元が変わっても、猫の要求は一つですから。

 

「ねー、ご飯ちょうだいよーー!!」

 

「あー、はいはい、ご飯ね」

 

ローズおばぁは、ゆるゆるとベッドから起きると、キッチンへ行き、冷蔵庫のミルクを取り出しました。

 

ふと食器棚のガラスに映った自分の姿を見て、

 

「あら〜、どこのババアかと思ったら、あたしだわ。随分生きたもんだわね〜。これじゃジャックがお迎えに来ても、誰だか分からないんじゃないかしら?

 

以前、映画作りに行き詰った監督がうちを訪ねてきて、お土産のカステラに気をよくして、ついベラベラとジャックのことを話してしまったのよ。どうしてあたしがジャパンのカステラ好きだと知ってたのかしら?

 

喜んだ監督が映画を作ったら大ヒットして・・・あの時はうちにもマスコミが来たけど、今はやっと静かになった。あれから何年もたったから、あたしもますます年をとるわけだわ・・・。」

 

なんて考えていると、「早くご飯ちょーだーいニャー!!」

 

「ああ、はいはい、そら、お飲み」

 

ふうちゃんの前にミルクの入った小皿を置くと、一心不乱に飲み始めます。

 

ぴちゃぴちゃぴちゃ・・・猫のピンクの舌が忙しく動いて、ミルクがどんどん減っていきます。

 

他の何も見えない、生きることだけに集中している姿。

 

そんなのを見ていると、ローズにまた元気が湧いてくるのでした。

 

「よしよし、もっとお飲み」

 

ふうちゃんはお腹いっぱいになって、毛づくろいを始めました。

 

ローズおばぁは、ふふっと笑って「まだ生きないとね・・・お前にミルクをあげるためにも。」

 

おばぁの手が優しくふうちゃんをなでて、ふうちゃんは眠くなってきました。

 

寝ちゃダメだ、ローズおばぁには聞きたいことがいっぱいあるのに。あれからどうやって女優になったの?何より、ジャックのこと、いっぱい聞きたい・・・

 

ウトウトするふうちゃんの耳の奥に「びよ〜ん、びよよ〜ん」と三味線の音が聞こえてきます。

 

この音をたどれば元の世界に戻れるのはわかっていましたが、もう少しおばぁと一緒にいたいなと思うのでした。

 

おしまい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者プロフィール

古波蔵ふう香
古波蔵ふう香
猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。