「本牧亭の灯は消えず 席亭・石井英子一代記」を読んでいます。
42年間にわたって講談専用の演芸場・本牧亭を守ってきた英子さん。その素顔は、本人が言うには
「私は自分のことで語ることは何もないんですが、ひとつだけ言っておきたいことがあります。それは、私は普通の明治の女ということです」
明治の女、つまり、自分をことさら主張する今とは真逆の女性だったようです。
周囲の受け止めも、本の中でいろいろな人がこう言っています。
「おかみさんは、自分がいかに駄目な人間であるかという話なら1時間でも喋っているような人である」
「自分のことは「ダメダメ」で、決して人を悪く言わない。おかみさんがそういう人だから、取材者は本音を引き出すのに苦労したはずだ」
と、どこまでも出しゃばらない明治の女。講談についてさえも
「昔はよく、講談定席の本牧亭の女将だから講談のことはなんでも知っているだろうと思って、新聞記者の方や演芸関係の研究をしている方が話を聞きに来られたんです。しかし、自分の商品である講談のことだって詳しくないので困りましたね。」
どこまでも謙虚です。
でも、長年、講談を聞いてきただけあって、本の後ろの方にある講談師一人一人に対する批評は鋭いです。
そして、この本の中で一番私が意外と厳しいなーと感じた英子さんの言葉は、同じ女性への言葉、女流講談師へ向けられたものでした。
「平成元年に真打になった、神田すみれ、香織、紫、紅のみなさんの真打ち昇進を祝う会で挨拶をと言われたので、「言いたいことを言うけどいい?」と断って、
「今のみなさんのは悪いけど講談としては認めていません。ショーとして、色物としてはけっこうだと思います。今後、芸を磨いていけば本当の講談師になると思うので、頑張ってください」
と、ズバリ言ったんです。後援会の方は失礼なことを言うなと思われたでしょうが、その頃は本牧亭の席亭をやめた後だったので、「もう席亭ではないから何言ってもいい、そう思いましてね」
うーん、厳しい。我が師匠の紫先生も、この言葉、うなだれて聞いていたんじゃないでしょうか。
今では、上手な人に男も女もないと思いますけど。私は女性の講談師の方が読む女性が好きです。すっと感情移入できるので。
英子さんの言葉は、当時の女流講談師に対する冷ややかな感じをうかがわせます。
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