ふうちゃん物語(27)地獄に一番近い職業

 

「そこの人間!そこで何をしておる!!」大地が割れんばかりの大声に、チビはびっくりしました。

 

みんなで外に出て、橋のたもとまで行きます。崖の先には石の橋がかけられており、誰のためにつくられたのか、立派で大変長く、隣の山まで続いているようですが、遠くて先が見えません。

 

石の橋を渡ろうとしていた人間は、「ひゃーーー!」という叫び声を上げて振り返りました。中肉中背の、ちょっと髪の薄くなった眼鏡の男性でした。

 

「ここは天地の割れ目にある清涼山だ。この世は広く、あの世はもっと広い。世界が広いと必ず迷子が出る。迷子を保護し親元に返すのがこの獅子の役割だ。

 

よいか人間、清涼山の石橋(しゃっきょう)は普通の人間の渡れる橋ではないぞ!よい行いをし、徳を積んだ者だけが渡ることができるものだ!」と言い放ちました。

 

そこにいるのは、さっきまでの優しい獅子パパではなく、威厳に満ちた獅子そのもの。その後ろに、獅子ママもコロ丸も姿勢を正して控えます。

 

チビはあれっ?と思い、何か思い出しかけましたが・・・

 

おずおず男が言います。「あの・・・あの世この世って、私はもう死んだというのですか?そんな・・・

 

よい行いをした者というのなら、私も少しは自負があります。私は歯科医として人々の口腔ケアに努めてきました。」なるほど、男は白衣を着ています。

 

獅子パパ、くわっと目を開き、「なにー!?歯医者!?お前は歯医者なのか!残念だな。お前は地獄行きだ。」あっけなく宣言しました。

 

ふう

 

「ええーーっ!?」

 

「いいか、よく聞け。歯抜き師、医者、山伏、軽業師、これらは皆、昔から地獄に落ちると決まっておる。その中でも歯医者が筆頭にいるのはなぜか、わかるか!

 

いにしえより政治家の「善処します」、最近では高級官僚の「そんたくはありません」、これらの言葉は本来の意味を離れ、全く意味をなさない。

 

変化球では、関東の美容院「どこかおかゆいところはございませんか〜?」も、返事がないので、似たようなものだろう。歯医者の「痛かったら手を挙げてください」もしかり。こっちは痛いから手を挙げてるのに、あいつら2回目からは無視してガリガリ削りよるんだ。

 

大体、人工知能、iPS細胞と科学技術の進歩著しい現代において、どうして我々はいまだに歯医者の「キュイーン」って音に怯えないといけないんだ。この一件だけで、いかに歯科関係者が患者のことを考えていないかよくわかる。

 

わかるか?あの音を聞いただけでこっちは身がすくみ、地獄の一丁目、棺桶に片足突っ込んだ絶望的な気分になっちまう。歯磨きを少々怠ったぐらいで、なぜこんな思いを味わわないといけないんだ。

 

貝柱みたいなのを口の中に入れられ、1時間も口を開けっぱなしで、終わったらあごは疲れているし肩は凝って、くたくただ。美容院で肩を揉んでくれるサービスがあるが、歯医者でもやるべきだ。サービスじゃなく、必ずやるように要望する!

 

とにかく、患者の心を毎度毎度、地獄に突き落としておいて、自分は地獄に行かないって法はないだろう!ええ!?」獅子パパ、一気にまくし立てました。

 

歯医者はわなわな震え、「地獄行きって、そんなバカな!嘘だろう・・」つぶやくと、

パパ「そうだ、今のは嘘だ」「ええっ!?」

 

「歯医者に恨みのある筆者がワシに言わせてかたきをとったんだ。わっはっは!ざまあみろ!」からりと言いのけました。いやはや。(続く)

 

ふう