獅子パパのきつい冗談に、歯医者は、へなへなとその場に座り込みました。
「はは、なんてことだ、僕は死んだのか。オヤジも早死にだったけど、それより若くして死んで、あの世で獅子にからかわれるとは・・・」眼鏡をとって鼻をぐすぐす言わせます。
獅子パパ「何だ歯医者、お前は泣き虫だな」
歯医者「泣きたくもなりますよ。
うちは祖父の代から歯医者で、そう言うと、他人は、僕が学歴も歯科医院も楽々手に入れたと思う。
そうじゃない。父は40になるかならないかで亡くなった。僕は中学に入ったばかり、妹はまだ小学生だった。ちょうど古い医院を建て直した直後だった。真新しい設備、広い待合室・・・万事派手好みな父は得意満面だったけどね。間もなく医院は人手に渡ったよ。
母に残されたのはぼろぼろになった「名家」の看板だけ・・・母は保険のセールスをして僕たちを大きくしてくれた。大学は奨学金を借りまくって、母は親戚に頭を下げて学費を工面して、何とか歯科医になった。
結婚し、去年念願のクリニックを開設して、患者さんもふえてきて、子育て中の妹も歯科衛生士として手伝ってくれている。ことしの秋に父の法事を行って一区切りつけたところで、本当に、本当にこれからだったのに、どうして僕は死んでしまったのだろう・・・」
さめざめ泣いていると、
「そうかそうか。やっと運がめぐってきた矢先だったのにな。ところでお前、何でここに来たと思う?」獅子は冷静に聞き返しました。(続く)
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- 猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。
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