「うーん、もうすぐ師匠が来るっていうのに、うまく弾けないなあ」お母さんはぶつぶつ言っていました。
「師匠?」ふうちゃんは分かりません。
数日後の日曜日・・・
お母さんは朝からお掃除をしたりばたばたしていました。そしてピンポーンと玄関で音がして、「こんにちわー!」若い男性がやってきました。
「知らない人間が来た!」ふうちゃんは驚いて押入れに避難しました。飼い猫になって以来、普段接する人間はお父さんとお母さんだけなので、ほかの人間が来ると怖くて隠れるようになっていました。
「いらっしゃい!よろしくお願いします!」お母さんにこやかに、男性を例の部屋へ通します。
「あの人間は誰だろう・・・宅急便の人でも設備点検の人でもなさそうだし・・・お母さんがいつもより愛想がいいのも気になるし・・・
知らない人間は怖いけど、ちょっとだけのぞいてみよう」
好奇心旺盛な猫は、ドアの隙間からそっとのぞくと、二人が向かい合って正座していました。
「三味線は組み立てられますよ」とかいって、男性はカバンの中から棒っ切れやら小物やら取り出すと、てきぱきと組み立て始め、あっという間にお母さんの膝の上にあるものと同じ姿のものができ上がりました。
そして何やら弾き始めると、、、
「あっ!この音は聞いたことがある!小さいころから時々耳の奥で聞こえていた音だ!そうか、三味線の音だったんだ!
レオが、猫のテレパシーは未来の情報もキャッチするって言っていたけど、このことだったんだ!このおうちに来ることは運命だったの?わーっ、すごいすごい!」
興奮して三味線の音に耳を傾けます。
一の糸はお腹に響く低音で、それでいて眠気も誘うような心地よさがあります。
二の糸、三の糸を速く弾くと、水玉が葉っぱの上を遊びながら滑り落ちる様子が目に見えるようです・・・雨の日、あの公園で茂みに隠れて、じーっと長いことそれだけ見ていたことがあったなあ。隣にクーがいたっけ・・・
ふうちゃんは少し眠くなってきましたが、二人の話は続いています。
「・・・・ええ、大体、オスの皮っていうのは傷だらけで使い物にならないことが多いんです。喧嘩したりするでしょう」
「キーちゃんも、喧嘩ばっかりしてたから、傷だらけだったなあ・・・」ぼんやり考えていました。
師匠「一番いいのは若い三毛猫と言われているんですけどね」
そこでふうちゃんははっと目が覚めました。「何に何が一番いいって!?」
ドアの隙間から、ふうちゃんの視線は三味線の胴の白いところに集中しました。「あの人たち、あそこに張る皮の話をしているんじゃ!?」
ぞーっと全身総毛立って、そろりそろりとドアの前から離れます。
「・・・でも、今は猫の皮を使うことはないですけど」師匠が言ったとき、猫は逃げ出した後でした。(続く)
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