ふうちゃん物語・夏(2)小さなステージ

お父さんが演武するのは、銀座にある沖縄のアンテナショップ「うちなー」です。

一階はゴーヤーや島豆腐などおなじみの沖縄の物産が売られていて、地下ではかりゆしウェアや泡盛などが売られています。

最近、この地下の売り場の一角に小さなステージがつくられました。ステージ前には20ほどお客さん用の椅子も置いてあり、三線の発表会やライブが行われて、「体験型」の沖縄を感じてもらうという店長のねらいどおり毎日賑わっていました。

「どーもっ、きょうはよろしくお願いしまーす」ふうちゃんのお父さんが到着しました。

数年前までお父さんはこのショップで働いていたので、勝手知ったるというか、変な感じでした。

「ども、よろしく」渡(わたり)店長も白い道着に着替えて、黒帯を締めています。店長はお父さんのかつての上司で、空手を始めた時期は同じという仲です。

「えりぃちゃん、何とか飛行機には乗ったみたいなんだけど、出発するかどうかってところなんだって。1時からの回は無理にしても、4時の回はぎりぎり間に合うかな?」

えりぃちゃんというのは、きょう歌を歌う予定の子です。

「そうか、まあ最悪、4時の回も空手だけでいいんじゃないかな」

「それが微妙なところよ。ほら、あの一群の男ども見て。えりぃちゃんの追っかけ。彼女目当てで開店前から並んでいい場所確保して。それが来れませんでしたーで済むかな?」

店長が指差した方には、男性ばかり5、6人、明らかにそれとわかる人たちがいました。みんな下を向いてスマホをいじって、ねっとりとした空気感を醸し出していました。

 

ふう

お父さんの背中にもたれて、人間みたいなふうちゃん。