ふうちゃん物語・夏(3)視界不良

「すごいね、追っかけが。」横目で見てお父さんが言います。

「近々、大手事務所と契約するってよ」「へー、出世したね。覚えてるよ、昔はFMたまんとかにも出てたさ」

FMたまんは沖縄のラジオ曲です。

仲間えりぃは名護出身の20歳、子供のころからローカル番組で人気者で、地元でこそ有名でしたが、かわいいルックスもあって、最近本土でも人気が出始めていました。

「店長、えりぃから連絡あって、これから飛行機飛ぶそうです!」

青いブルーのかりゆしを着たひょろっと若い男性店員が耳打ちしました。

この人は泡盛コーナー担当の与那覇君。彼の弟がえりぃと同じ中学だというつてで、今回のライブが決まりました。

・・・ん?何かご都合的ですか??

いえいえ、沖縄の人が何人か集まったら、「あの有名な○○は、うちの兄弟or従兄弟or知り合いの知り合い」ということで、あっという間に関係性ができるものなのです。狭いのさー。

「よかった!じゃあ3時過ぎには店に来れるな!準備も入れて、4時の回は間に合うな!」

一同胸をなでおろしました。

「えりぃちゃんをお待ちの皆さーん、えりぃちゃんは、実はけさ那覇を発つ予定だったんですが、こんな天気ですから、1時の回は、済みません、間に合わないんですが、4時の回は絶対来ますので、それまで空手を見るもよし、店内でブルーシールのアイスを食べるもよし、のんびり時間潰しててくださいねー」

与那覇君のアナウンスで、追っかけたちもほっとして、店内をあちこち探検し始めました。

お父さんと店長は演武を長めにやって歌がないのを埋めて、3時の演武も何とか無事終えました。

「店長!」与那覇君が焦った顔でやってきました。

「えりぃちゃん、今羽田に着いたそうです!」

「ええ?今着いたわけ?」時計はもうすぐ4時。

「それが、飛ぶ直前で大雨に見舞われて・・・」

二人の声をファンたちも聞きつけて、「えりぃちゃん、今着いたんですか?じゃあまだ待つんですか??」「す、済みません、もう大分お待ちですよね」誰かが舌打ちをしました。

ふうちゃんのお母さんは演武を見に来ていました。「何か険悪な雰囲気になってきたなあ。もう帰ろうかな」帰ろうとしたら、店内が急に騒がしくなって、1階から人がどっと流れ込んで来ました。

「店長ー!雨です!」お店の人が大声を出して、表に出ていた商品を片付け始めました。

台風の残り雨が、急にたたきつけるように降ってきて、往来にいた人たちも雨宿りのために店内に入ってきました。大勢の人で店内はぎゅうぎゅう、地下にもどんどん人がふえてきました。

入ってくる人たちはみんなびしょ濡れで、外国語も聞こえます。ごちゃごちゃ、いらいらが店内に充満して、出ることもできない。お母さんは頭が痛くなってきました。

「あのー店長、えりぃちゃんが来るまで、私、何か歌いましょうね?」女の子の声がしました。(つづく)

 

ふう

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古波蔵ふう香
古波蔵ふう香
猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。