ふうちゃん物語・夏(5)ジントーヨーワルツ

えりぃの前座で出てきたマナですが、「安里屋ユンタ」「島唄」と2曲歌って、のんびりしたおしゃべりにつき合っているうちに、みんなの心は和らいでいきました。

マナは、一見どこにでもいる女の子でした。

まん丸い顔に髪を肩で切りそろえ、体もぽっちゃりして、一見太めのコケシ・・・という感じですが、色白で、大きな目は涼しげで、静かな海のように落ち着いた空気を醸し出しています。

「えーと、次は「ジントーヨーワルツ 」という曲を歌います。

この曲のテーマは別れです。親子の別れ。

私、出身が名護なんですけど、高校を出て東京に来たので、この曲を聴くたびに沖縄の両親のことを思い出して・・・曲の中に名護って名前も出てくるんで、これは自分の歌だーぐらいに好きなので、聴いてください」

「ええっ、そんな古い曲?」三線を弾いていた金城さんはびっくり。必死に思い出して弾き始めました。

ふうちゃんのお母さんは客席から聴いていました。「わー、懐かしい。初代ネーネーズの曲ね。夫と付き合い始めたころよく聴いたっけ・・・

でも、マナちゃんって子、若いのにどうしてこんな曲知ってるんだろう?」

「別(わか)て旅行きば 嬉(う)りしや淋(さび)しさん

覚(う)び出(んじゃ)しよ 産子(なしぐわー)

ジントーヨー ジントーヨー

島ぬ事(くとう)んよ

親子振別(おやくふわか)りぬ 照らし火ぬ名残(なぐ)り

面影(うむかじ)どぅ 勝(ま)しゅる

ジントーヨー ジントーヨー

名護(なぐ)ぬ城(ぐしく)よ

名護(なぐ)ぬ城(ぐしく)よ」

ふうちゃんのお母さんは感心していました。

「先に歌った「安里屋ユンタ」と「島唄」は有名な曲で、誰が歌っても名曲だけど、こういうマイナーなのを歌うと上手なのがよくわかる・・・マナちゃん、相当歌えるな・・・」

急に大人っぽい表情になったマナを、みんな見つめていました。

別れの歌なのに、悲しみとは無縁な穏やかな曲でした。・・・今はお別れだけど、いつかまたきっと会える、長い長い魂の旅の途中で再開できる日を信じているよ・・・

見事に歌い上げ、地下のフロアが拍手でいっぱいになるときには雨も上がって、夕方の心地よい風が吹き始めていました。

「あ、皆さん、えりぃちゃんが到着しました!」

 

ふう

暑くて、猫まっすぐ。背筋ぴーん。

 

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古波蔵ふう香
古波蔵ふう香
猫と和のお稽古にまっしぐらな私の毎日をつづります。