11月国立劇場「孤高勇士嬢景清」(ここうのゆうしむすめかげきよ)

「さっきは叱ってごめんよー!夫婦仲よく暮らして長生きするんだよーー!」

お父さんの声、届いたよ。嬉しかった。

でも、できれば面と向かって言ってほしかったな。私の船が出た後じゃなくて・・

本当に久しぶりに会ったお父さん。3歳のときに別れたから、10年以上たっているのね。

私も14歳になりました。

亡くなったお母さんを知っている人からは、「顔立ち、人を呼ぶ声、姿もお母さんそっくりになったね」って言われるの。成長した私を見てほしかったな。

お父さんは目が見えないから、私の顔をなでたり、声を聞いたり。娘だとわかったときのあの表情で、すごく喜んでいるのがわかったよ。

でも、村人の手前、我慢したんだよね。

「今はどうやって食べているんだい?」と聞かれて、本当のことを言えないから、「大きな百姓家に嫁いで、十分な暮らしをしているの」と言ったら、「お前は武士の娘なのに、百姓の嫁なんかになって!」って怒り始めたの。

もう、お父さんったら。

でも、お父さんは誇り高い平家の重鎮、そして平家滅亡の後は反頼朝のシンボルだから、普通の父親みたいに喜べないんだよね。

頼朝は、怖い人。

あの人は、平家残党に神経を尖らし、怪しい者は残らず捕らえ処分した。

東大寺の盧舎那仏が再建され、お披露目の日にお父さんが頼朝の暗殺を企てたけど、あと少しのところで失敗し、捕らえられてしまった。

「お前の義侠心に免じて命は許す。

それ、源氏の白旗をお前にやろう。これを好きなだけ切り裂いて、思いを遂げるがいい」

頼朝はそう言い、部下の中には頼朝の懐の深さに涙する者もいたというけど、お父さんは多分、平家の武士として、腹を切って死んでしまいたかったと思うの。

でも、刀は没収され、死ぬこともできない・・・

残された小さな刀でお父さんが自分の両目を突いたのは「頼朝様の慈悲に感謝し、もう二度と命を狙わないため」と口では言ったけど、武士としての自分を葬るためだったのね。

周りのみんなは「武士の手本」とほめたたえたけど、そのときの頼朝は顔面蒼白、目は笑っていなかったそうね。

だからお父さんが宮崎県の田舎に流れ着いて、食うや食わずの生活をしていても、村人に監視をさせていんだわ。

私のことだけど。

3歳までしか一緒に暮らさなかったけど、記憶の中のお父さんは、いつも優しかった。一緒に絵を描いたり、お馬さんもしてくれたね。

別れる日にお父さんが「これから源氏との戦いになる。長く苦しい戦だろう・・・お前を連れて行くわけにいかないからお別れだけど、お父さんの娘だということを忘れないでおくれ」

忘れていませんとも。

盲目の人でも高い官位のある人は一生不安なく暮らせると、いつかお坊様に聞いたことがあるの。もともと上流階級の福祉政策だったみたいだけど、庶民でもお金を用意すれば官位が買えるそうね。

だから、お父さんのためにお金を用意しました。

置屋のご主人とおかみさんに、「お父さんのいる宮崎に行って一目会いたい、それさえ叶えば何年でも働きます」と言ったら、「何て孝行娘なんだろう」と泣いて、餞別までくれました。

友達は「3歳までしか知らない父親のためにそこまでする?」と引きとめてくれたけど、育ててくれた乳母も亡くなって、私にはもう家族と言えるのはお父さんだけなの。そのお父さんに、楽に暮らしてほしい。

私もお父さんに似て、思い込んだら命がけ・・・不器用なのかな?きっと怒ると思うんだけど・・・

 

11月の国立劇場でやっている「孤高勇士嬢景清」(ここうのゆうしむすめかげきよ)の粗筋です。娘の糸滝(いとたき)の独り言で書いてみました。

景清は、死に時を失い、宮崎で隠遁生活を送ってましたが、娘が自分のために身を売ったと知ると、それこそ血の涙を流し、身もだえし、受け取った金を投げつけます。

そして、景清の監視をしていた男にタイミングよく「今頼朝に従えば、娘が身を売ることもなく取り計らう」と翻意を促され、「今度こそ頼朝のために働く」と、平家の看板を下ろしました。

いろんなふうに解釈できますねー。めでたし、めでたしと言えない終わり方です。

多分、この後、景清は、娘が幸せになったのを見届けてから、さっさと亡くなるような気がします。何度も体制に従うふりをして、従っていない彼のことですから。

頼朝は、彼の周囲に与える影響力を恐れていたのだと思います。平家のシンボルが生きているということは、反勢力が集結しやすい。

景清の娘、14歳の糸滝は、雀右衛門さんが演じていました。かわいそうな身の上のはずですが、「しっかり稼ぎなさい」と言いたくなるような、ドーンとした存在感・・・笑

でも、完璧につくり過ぎると悲壮感ばかり残るので、いいのかも。

クライマックスの景清のセリフ

「積悪の災い、我が子に廻り報い来て、君傾城に身を落とせし、娘が身の油の価(あたい)にて、老いの命をつながんこと、娘が屍を食ろうも同然。但しは、外道畜類になれとの仕業か」

このくだりは何とか分かりましたが、全体的に言葉が難し過ぎてよくわからないんです。

ここは浄瑠璃は竹本葵太夫、人間国宝になったばかりで気合十分、三味線も感情がこもって、撥で思い切り引っ叩いているので、一緒に行った夫がびっくりしていました。なのに言葉が聞き取れない。シナリオを買って読んで、こりゃーわからんわーと納得しました。

ふう

観劇中のお母さんのモノマネだにゃ〜