ふうちゃん物語(24)猫の滝流し

 

公園にいるチビに話を戻しましょう。

 

大型台風がやっと通過し、チビたちの公園にも日差しが戻ってきました。台風の間は人間が来ないため、猫たちはみなお腹をすかせていました。

 

「ああーー、お腹すいたよおーー。お腹いっぱい食べたら大きくなれるかなあ?」チビは相変わらず小さくてガリガリなのを少し気にしていました。「もうすぐ人間がくると思うよ?」クーが答えます。

 

「ねえクー、この公園だけじゃなくて、新しいえさ場を開拓しない?」「えー?縄張りから出ると面倒じゃない?古い猫の目もあるし。」クーはキー子の大げんかを忘れていません。「だって、ここだけじゃ足りないよぉ。もっとたくさんもらえてゆるーい縄張りのところ、きっとあるよぉ」

 

そこへトラ猫のチョボがやって来ました。「チビちゃんおはよー!やあ、台風大丈夫だった?最近のは大型だねー!ここらへんもあっちこっち木が倒れてらぁ」

 

「ねえ、チョボ、このあたりで縄張りのゆるいえさ場ってどこか知ってる?新規開拓しようと思って」チビにそう言われると、チョボは頼られて有頂天。

 

「そうかそうか!若いうちは見聞を広めるのがいいやねえ。新大陸発見なるかだよなー!おじさんに任せとけって!」

 

チョボはちょっと考えて、「ちょっと離れてるけど、どんぐり林の向こうにあるマンションが大きくて猫好きな人間も多いって噂よ。以前ちょっと行ったことあるけど、のんびりした雰囲気だった。」と言うので、三匹で行くことになりました。

 

途中、レオに会いました。台風の後で公園の中はゴミやちぎれた枝葉で雑然としているのですが、レオ様の周りだけ別世界。きょうも長い毛がつやつや輝いています。「おや、お揃いでどちらへ?」

 

「・・・てなわけで、ちっと遠出してくるわ!」チョボが言うと、レオ様は美しい顔をちょっと曇らせて、「台風の後はどの猫も飢えてるから気をつけて」と言い、クーは何か嫌な予感がしたのですが、そのとき、びゅううっと強い風が吹いたせいだろうと思いました。

 

ふう

 

どんぐり林を抜けて行く途中、小さな神社があって、参道の入り口に狛犬が二匹並んで座り、その足元にババ猫が二匹いました。片方は白に黒のブチ、もう片方は白に虎模様のブチ。

 

「ああーー、肩が痛い、寝すぎると体が痛いわあーー」「あんた、それは年よ、年」「そうかしら?最近あたし、鼻水が出てるのも気づかないの。風が吹いてスースーすると思ったら鼻水が出てんのよ」「あるわぁ」「ええと、きょうはお客さんが来るんだっけ?もう覚える気もないのよぉ」

 

どっちがどっちでも構わないようなのんびりした会話を道すがら聞いて、「雰囲気は悪くないな」とチョボはつぶやき、どんぐり林が終わって、やっとマンションの端っこに着きました。小高い丘につくられたマンションで、どんぐり林との境が地形を利用した公園になっていて、憩いスペースや親水スペースになっています。階段やら坂道が多かったので、三匹は少し疲れていました。

 

憩いのスペースに小さなベンチがありましたが、台風の後なので人はいませんでした。ふと見ると、誰が入れてくれたのか、お皿にご飯が山盛り入っているではありませんか!

 

「ご飯だ!」疲れも吹っ飛び、三匹は喜んで食いつきました。

 

 

すると、

「ちょっとあんたたち!どこの猫だい!?」ぎょっと振り向くと、子猫を5匹も連れた母猫が鬼の形相でにらんでいました。「まずい!逃げろ!」「お待ち!この泥棒猫め!」

 

こういうとき狙われるのは一番どんくさいやつと決まっています。チョボとクーはあっという間に逃げ、標的にされたチビは必死の走り、ベンチの上、階段をおり、植栽の間を抜け、もと来た公園に戻り、振り向くと母猫があと一歩まで迫ってくるではありませんか!無我夢中で近くにあった木に登り、太い枝の先まで行きます。

 

「きゃーーっ!」チビはこんなに高い木に登ったことがなかったのです。

 

チビの体重で枝が大きく揺れます。「怖いー!」チビは思わず下を見てしまい全身がすくみ、それと同時に、台風で枝のもとが折れていたのか、ばきばきっと音がして、枝とともにチビは落下!落ちたところは幅1メートルほどの川で、子供が入らないように柵がしてありましたが、上から落ちるやつのことは考えていない。

 

ぼちゃん!

 

台風で増水した上、流れも急で、チビはあっという間に下流に長され、そこから先は川は鉄で覆いがしてあり、がくんと深くなります。水は滝のように下に落とされ、下は滝壺のようになっていて、子猫の姿は見えなくなってしまいました。(続く)

 

ふうちゃん