ふうちゃん物語(30)迷子はやがて親元へ

 

「また、お前のように、死んだらどうしようとびくびくしていると、それが魔を引き寄せ、魔に突かれるんだ。」

 

「そうだったんですか・・・」

 

歯医者ははっとなって「そうだ、僕は死んだのに、今さらそんなことがわかっても遅過ぎますよ!」獅子に食ってかかりました。

 

「お前はまだ死んじゃいないよ」獅子は冷静に。

 

「えっ?」

 

「言っただろう。ワシの役目は迷子を保護し、親元に返すことだと。亡くなったことを納得している魂は道に迷わず、まっすぐあの世に行くよ。自分の行くべき方向を見失っていたり、未練があるやつが迷子になってうろうろしているんだ。」

 

「そうなんですか!」歯医者の顔が明るくなりました。

 

「ついでに教えてやるとな、本当は地獄なんてものはありはしないんだ。鬼だって忙しいんだから、つきっきりで責め立てるなんてしない。

 

しかし、自分が自分を責める心だけは逃げ切れない。仕事の合間も電車を待っているときも、四六時中だ。お前は今肉体がないが意識がある。つまり死んだところで意識は残るから、ずっと自分を責め続ける。これを本当の地獄というんだ。地獄というのは自分でつくり出しているんだ。

 

わかったら、もう行け。お袋さんが心配しているぞ。」

 

獅子は、家の裏手のどんぐりの木の脇を指差し、「そこの道をまっすぐ行くと、道が二手に分かれるが、田んぼの方を行け。田んぼは今、稲が黄金色に実ってきれいだぞ。「米」は歯医者には縁の深い作物だろう。」

 

獅子がここまで言うと、歯医者は「はいっ!今度こそ頑張ります!」と運動部の部員みたいに言って駆け出しました。

 

「あーあ、あんなに走って帰らなくても・・・あいつ働き過ぎなんだよ」獅子があきれて笑いました。

 

歯医者の背中が見えなくなるまで、獅子たちとチビはどんぐりの木の方を見ていました。(続く)

 

ふうちゃん